大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和46年(行ツ)94号 判決

上告人 白都太郎

被上告人 浜松税務署長

訴訟代理人 貞家克己 外六名

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人田口英太郎の上告理由第一点について。

利息制限法による制限超過の利息・遅延損害金は、その約定の履行期が到来しても、なお未収であるかぎり、旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)一〇条一項にいう「収入すべき金額」に該当せず、課税の対象たる所得を構成しないものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであつて(昭和四三年(行ツ)第二五号同四六年一一月九日第三小法廷判決・民集二五巻八号一一二〇頁)、右制限超過の利息・遅延損害金が未収の状態においても課税の対象となるとした原判決には、同条項の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。

そして、原判決は、第一審判決添付明細表IIの番号15の貸付金について生じた制限超過の未収利息全額が課税所得を構成するものと判断しているのであるから、その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は、この点において理由がある。

なお、職権をもつて判断するに、制限超過の利息・遅延損害金の支払いがされたときは、その超過部分は法律上当然に元本に充当され(最高裁判所昭和三五年(オ)第一一五一号同三九年一一月一八日大法廷判決・民集一八巻九号一八六八頁)、その残元本についてのみ利息・遅延損害金を生ずることとなるので、利息・遅延損害金が法定の制限内であるかどうかは、右の残元本を基準として算定すべきものであるところ、原判決は、前記明細表IIの番号15、17、21ないし23の各貸付金について制限内の利息・遅延損害金の額を算定するにあたり、この点を看過し、すでに制限超過の利息が一部支払われたのちにおいても、なお当初の貸付元本額のみを基準として利息・遅延損害金の額を計算していることが判文上明らかであつて、この誤りは課税所得額の認定に影響を及ぼすものである。

また、原判決は、前記明細表IIの番号15、17、21、ないし23の各貸付金(ただし、17のうち昭和三〇年三月八日貸付分および23のうち昭和三〇年一〇月三一日貸付分を除く。)について、たんに制限超過の利息の約定があつたことのみを認定しながら、その遅延損害金については、利息制限法四条一項の制限を基準として算定しているが、制限超過の利息の定めのある金銭消費貸借において遅延損害金について特約のない場合には、遅延損害金は、同法一条一項の利率にまで減縮される利息と同率に減縮されると解すべきことは、すでに当裁判所の判例とするところであつて(昭和四〇年(オ)第九五九号同四三年七月一七日大法廷判決・民集二二巻七号一五〇五頁)、原審のとつた算定方法は誤りであるといわなければならない。そして、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

よつて、その他の論旨につき判断するまでもなく、原判決を破棄し、さらに審理の必要があるから、本件を原審に差し戻すこととし、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 関根小郷 天野武一 坂本吉勝 江里口清雄 高辻正己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例